||| ヒラメの移動 |||

◇ヒラメはどこまで移動するのか?◇
 日本列島周辺の広域な海域に分布するヒラメが単一の集団とみなされるのか否かという問題についてはいろいろな説がある。分布の連続性からみると、ヒラメは日本列島の周辺のほぼ全域に連なっているので、明瞭な分布の切れ目は認められない。しかし、細かく見ると半島を境にした群の認識や回遊経路が異なると推測される群の存在の可能性が報告され、それらを総合して日本列島周辺のヒラメを日本海側5群、太平洋側3群の計8区分としたものがある。それらの根拠に用いられた情報としては、漁獲の動向や標識放流の再捕結果に基づくものであったが、近年になってアイソザイムの分析やmtDNAの分析による集団解析手法が用いられ、さらに詳細な検討がなされるに至っている。
 移動の状況を知るためには標識放流が有効と思われ、天然魚を用いた標識放流実験はこれまでに数多く行われてきた。標識の結果を見ると放流地点の近傍で再捕された事例が多く、ヒラメの移動は比較的小規模であると考えられるが、長距離の移動を示した事例も少なくない。例えば日本海沿岸では、若狭湾で放流された個体が島根半島を越した事例がみられるし、新潟沿岸で放流された個体が富山湾で、青森県下北半島で放流された個体が新潟県で、北海道南部の上の国で放流された個体が新潟県で、それぞれ再捕された事例が報告されている。太平洋沿岸では、青森県と岩手県の県境で放流されたものが青森県の日本海側で再捕され、また、宮城県北部でも再捕されるなど、かなりの遠距離の移動事例が報告されている。千葉県館山湾で放流されたものは、神奈川県方向へ移動したものと、房総半島の外洋側に移動したものがあり、銚子付近で放流されたものは、北上するものが多かった。これらの結果から石田ら(千葉水試研報,40,37-58,1980.)は、銚子付近を境とする集団が存在すると推測している。北海道北部でも、利尻水道で放流されたものが積丹半島付近で再捕された事例やオホーツク海での再捕事例がある。
 天然魚を用いた標識放流実験結果のうち、比較的長距離の移動を示した事例を下記にまとめた。これらの結果を総合すると、牡鹿半島、房総半島、能登半島などの半島を地形的な境界とする集団が存在することが伺われるが、境界はそれほど明瞭なものではなく、各々の海域に分布する集団が隔離されているとは云い難い。
●更新日:2007/10/08
■参考文献:
南 卓志「ヒラメの生物学と資源培養」,T.資源生態,1.生活史特性,pp.9-24(1997)