||| ヒラメの色彩 |||

◇生活環境や精神状態により様々な体色に変化◇
 ヒラメは、体色が瞬間的に変化させることができる例で、水底の色や模様に敏感に反応することは有名である。 環境に調和して色斑を変え、自己の体を擬装し、外敵から保護しようとするのである。
 魚類の体色(coloration)や斑紋は種類によってまちまちで、一概にはいえないが、どちらかといえば海洋の上層とか寒帯に分布する魚類の体色は地味で、背面や側面が黒褐色ないしは青緑色を呈し、腹面が銀白色または白色のものが多い。 また、深さ500m以深に生息する深海魚では、一様に黒あるいは黒褐色のものが多い。 一方、温帯・熱帯の沿岸性魚類には単一色のものもあるが、複雑な斑紋をそなえた美しいものが多い。 特にサンゴ礁付近に生息する種類では、色彩も赤・黄・青など鮮やかなものが多い。
 体色は、同一種でも生息場所や雌雄により相違する種類も珍しくなく、生殖時期に限って現れる婚姻色(nuptial color)や老幼・季節・昼夜などの諸条件によっても変化する。 その他ではヒラメと同じように保護色として変化するものや心理状態の変化(興奮状態・闘争時・求愛動作中・驚愕など)によっても体色が変わる。
 魚類の体色は主として皮膚に散在する色素胞(chromatophore)に含まれる色素によるものである。 色素胞はその色によって、黒色素胞(melanophore)・黄色素胞(xanthophore)・赤色素胞(erythrophore)・白色素胞(leucophore)及び虹色素胞(iridophore)に区別される。 黒色素胞は真皮ときには表皮中にあり、メラニンを含有し、黒・褐色を呈す。黄色素胞・赤色素胞は真皮中にあり、カロチノイド系の色素を含有し、赤・黄・橙系の色の元となる。 白色素胞・虹色素胞は真皮中にあり、グアニンなど小結晶板を含む細胞で、銀白色を呈す。 これらの色素胞内の色素顆粒や結晶の凝集・拡散や、色素胞の配列様式によって、色の変化が起こったり、赤・黄・緑・青・黒・褐などいろいろの色斑が形成される。 ●関連ページ⇒「黄金のヒラメ
 一般的に色素胞は鱗上とか、真皮層に多く分布している。 鱗が覆瓦状に並んでいれば、色素胞も同様に重なって並んでいる。 そして、同じ鱗上でも中心部より表皮に近い緑辺に密布している。 鱗上の色素胞の配列をみると、黒色素胞が最上層にあり、その下に赤色素胞・黄色素胞あるいは虹色素胞が混在している。 黒色素胞は真皮と皮下組織の境界、眼の網膜、腸間膜、脳、脊髄の緑辺などに広く分布している。
 このように、魚類の体色及びその変化は色素胞の形態的特徴によって簡単に説明できるかのように思われるが、実際には細胞の形態的変化のみでは解決できないことがある。 というのは、これら細胞に含まれる種々の色素の物理・化学的な変化も大きく関与しているからである。 魚類が暗い環境で黒色化し、明るい環境では褪色する場合、黒色素胞内の色素が前者で拡散し、後者で凝集するのは事実であるが、これに伴ってメラニン(黒・褐色)やグアニン(銀白色)が量的にも変化している。 すなわち、暗い環境では皮膚の中のメラニンの量が増加し、グアニンの量は減少するし、明るい環境ではグアニンの量が増加し、メラニンの量は減少するのである。
 そうした中で、ヒラメは自分の生息環境にあわせて、陸上にいるカメレオンのように自由にその体色を変化させることができることから、魚類の中でも優秀な色素胞を持っているのかもしれない。
●更新日:2003/01/27,2009/05/28
■参考文献: