||| ヒラメの養殖とバイオ |||

◇ヒラメの養殖も日進月歩です◇
 カレイ、ヒラメ類は古くから高級魚して好まれている。 ヒラメやカレイは一般の魚と違って黒っぽい片側の頭に2つの目が並び、白い反対側の顔はのっぺらぼうで目がない。 魚屋では目のない方を上にして並べるが、海中では目のある方を上にして座っている。 中国の伝説にこの魚たちを比目魚(ピムウユィ)といって仲むつまじいオスとメスとが目のない方をぴったり寄せ合い二身同体となって泳ぐという仲の良い夫婦に例える話がある。
 しかし、俗に「左鮃の右鰈」といわれるようにヒラメは雌雄ともに目のある方が体の左側、カレイは右側である。 従って同じ種類のメス・オスが同じ向きに体を寄せ合うことはできない。
 ところが、米国西岸のヌマガレイは半分が右側に両目があり、残り半分は左側。アラスカ沖では7割が左、日本近海に来ると全部左側と変わる。同じ魚でも変異の激しさに驚く。
 最近の活魚ブームに乗ってヒラメがタイに替わって活魚の王様になりつつある。 かかりが良くて活きたまま漁獲できる。すじ網(刺網)による漁法で漁獲も増加しているが、一方で乱獲が心配される。 このため人工種苗生産の研究を進め、採卵し稚魚を養成して放流も行われ養殖魚が出回っている。
 ヒラメは早春に水深20〜40mの浅海で海底のメスにオスが乗りかかり、大形魚は100万もの卵を海中に産む。 卵から孵った子供は、普通の魚のように頭の両側に目がついており普通の姿勢で泳ぎ光の方向に集まる。 やがて頭の上には鶏冠(トサカ)状の鰭が現れ、孵化後1か月ほどで右側の目がぐるりと左へ回り親に似た底生生活に入り夜に餌を求めて行動する。
 これは何百万年もの昔に普通の魚のように昼間活動していたヒラメの祖先が次第に海底の餌を求め、海底に横倒しに休むようになり、体色も海底の模様に似せて外敵から身を守る習性をもつようになった長い履歴を物語っているのである。 ●関連ページ⇒「ヒラメの稚仔魚
 ところでヒラメのメスはオスよりも大きくなる。 ●関連ページ⇒「ヒラメの成長補足」 そこで養殖ではメスばかりを飼育した方が有利なはずである。 このため紫外線を当てた精子で卵を受精させ、オスの遺伝子が卵の中に入らぬよう工夫してメスの稚魚だけを作ることもできる。 また受精のとき卵を低温処理して大形になる3倍体のヒラメ作りも研究されている。 この3倍体ヒラメは子供を作る能力がなく、卵巣に栄養分が取られず、その分成長も良く味も落ちない。 このように魚の世界にもバイオテクノロジーの波が押し寄せており、ヒラメの方も人間によって思いもかけぬ生活に変えられ目をまわしていることであろう。
●更新日:2005/02/05,2009/05/28
■参考文献:
塚原 博/魚のおもしろ生態学〔その生活と行動のなぜ〕(1991)