||| 王餘魚 |||

◇投げ捨てた魚の片身が元気よく泳ぐ?◇
 その名は「王餘魚」といいます。 これはカレイやヒラメのことを示し、その由来は、中国の古書に記されているますので採録してみましょう。 
 今からおよそ2500年ほど前の物語。 春秋時代の中国に越という国がありました。 王は勾践といい、隣国の呉の国と争い、勝ったり負けたりの繰り返しが続いていました。 越王の勾践は、魚料理が大好きで、しばしば鱠(なます)を作っては賞味していました。 鱠には贅沢にも魚全部を使わず、いつも余った半分(片身)を水中に捨てていました。 ところが、水に捨てた片身の片眼同士のオスとメスが一体となり、片側に2つの眼を持つ魚に変身して元気よく泳いで海に帰っていったということです。 以来この魚のことを王が余って捨てた魚「王餘魚」と呼ぶようになったというそうです。 中国では現在でもヒラメのことを「比目魚(ピムウユィ)」といって仲むつまじいオスとメスとが目のない方をぴったり寄せ合い二身同体となって泳ぐという仲の良い夫婦に例える話があります。 この比目魚の語源は、王餘魚と一緒であるようで、これは眼がふたつ並んでいる魚の意味を表し、正にヒラメのことを指します。
 ヒラメやカレイが日本でも片身の魚と思われた時代があります。 それは江戸時代の話で、ヒラメとカレイを「かたわれ(片割)魚」と呼びました。 片身しかない魚の意味だそうです。(「物類称呼」)
 このような話は、現代でも心当たりする場面が度々あります。 食べ方を本当に知らないのでしょうか? カレイの姿煮を片側しか食べなかったり、残してしまうケースです。 これもその半身をそのまま海にそっと帰したら再びカレイとなって泳ぎだすのかも知れませんね(笑)...
 ヒラメやカレイには歴然とした左右の体があります。 その両側には立派な筋肉がついています。 ヒラメの左右の可食部の肉量を調べますと、体の左側(体色が褐色の有眼側)で50%、右側(体色が白色の無眼側)で46%とほぼ同率でした。
 ヒラメやカレイは決して「かたわれ(片割)魚」ではありません。 横になって寝た姿に進化したばかりに人々に誤解されてしまったに過ぎません。
■参照文献:
佐藤魚水/ヒラメは、なぜ立って泳がないか(1995)