||| 猫またぎ |||

 いわずと知れたヒラメの「ことわざ」ですね。「三月鮃は猫(犬)も食わない」ということわざと同じです。では、どうして3月のヒラメは、猫ですらまたいでしまうというのでしょうか?実際に3月に釣ったヒラメの身を試しに猫にあげるととても喜んで食べてくれました。「なんだ!またがないのか?ウソじゃないか!」と怒らないでくださいね。あの有名な「鮭の猫またぎ」の話もそうですが、お腹を空かして今にも死にそうな猫や犬が、目の前の食事を本気でまたぐ訳がありません。まあ中には美食家の猫や犬もいるかもしれませんが・・これは、あくまでも「ことわざ」なのでその辺を追求してはいけません。
 この「ことわざ」の理由としては、冬を過ぎて春になる頃には産卵もすっかり終わり、ヒラメの体の脂が抜けて急激に味が落ちてしまう・・というのが一般的な理由です。確かに他の生物でも同じことがいえますね。但し、この場合は、「産卵した後」のヒラメのメスが対象となっているので、熟成していない子供のメスやオス(いわゆる「ソゲ」や「ハガ」)や生殖能力がすでにない大型のメスなどは関係ないと思われます。別のことわざに「春鮃や桜鮃はソゲを食え。」などもあります。このように成熟したヒラメのメスは、産卵時期の冬場に海岸付近の浅場まで移動し、イワシやアジなどをたくさん食べてどんどん栄養をつけて12月〜2月の頃には丸々と太って肉厚になります。この時期のヒラメを「寒鮃」といい、ヒラメの旬して一番美味しい季節とされています。ところが、産卵を終えると体力と栄養を使い果たしたメスの体は、脂質がなくなりスカスカやブヨブヨになって身に締まりがなくなるといいます。ただでさえ、カレイなどの魚と比べても脂質が少ないヒラメです。この産卵後状態のものを食べると産卵前のものと比べても美味しくないと感じてしまうのは仕方がありません。
 その釣り場で、ヒラメが産卵したどうかの見極めは難しいですが、釣り上げた産卵前のヒラメのお腹は、いかにもパンパンな状態で卵巣が大きく張れています。産卵後のヒラメは極端に身が痩せていて生気も感じられず、お腹を軽く押してみて明らかに卵巣が収縮していてペッチャンコです。
 昔の人はちゃんと計算していたのかどうかわかりませんが、この「猫またぎ」の時期=「産卵期」と理解していたのかも知れません。どうせ食べても美味しくないから禁漁期間にして、未然に乱獲を防止し、資源や環境の保護を実践していたのでしょう。
 いずれにせよ、海域によって産卵期のバラつきはあるものの3〜6月は、どこのエリアでもヒラメの産卵シーズンとなりますので、必要以上に無闇に釣ったり獲ったりせず、ヒラメの体が落ち着く7月以降までそっとしておいてあげる優しさが必要です。